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かこ さとし作『からすのパンやさん』を読んで

 

今日の夜9時、子供たちが寝る前に、本を読んだ。息子が小学校の図書館で借りてきた本。

読んで、驚いた。「からすのパンやさん」かこ さとし作。

最初は、ちょっと殺風景な表紙の本で、ぱっと見て、なんで息子がこれを選んで借りてきたのか分からなかった。息子の趣味に思えなくて。聞いたら、保育園の時に何度も読んだことがある話らしい。へえ。

と思ったら、すごい話だよ。作者が全身全霊を込めて世界の子供たちに伝えたかった、世の中の真実と、その愛の深さ。気になってよく見たら、「1973年9月刷」。今どきの飾り立てた本とは、違うんだな。作者は、戦前生まれの男性。

街のカラスのパン屋夫婦に、4羽の赤ちゃんが生まれるんだけど、誰も黒くない。父さん母さんは黒いのに、子供は白と黄色とオレンジと茶色みたいな色。

パン屋の夫婦は、赤ちゃんの世話をしながらで、パンをこがしたりして、うまく作れなくなり、売れなくなり、貧乏になる。そこで夫婦はどうしたかというと、焦って育児放棄したわけではなく、お客さんを放棄して、せっせとパンを失敗しながら作り続け、子供たちにパンを与えたんだと。すごい。

そしたら、子供の友達がうらやましがって、焦げたり失敗だらけのパンを喜んで欲しがり、大勢の子ガラスたちが店に買いに来た。大人が買わなかったパンをだよ。その子ガラスがまた、一羽も真っ黒じゃない。青や灰色、同じ色の子供なんて一羽もいない。

大勢集まった子供のお客さんが、パン屋にアドバイスをくれる。店の掃除、パンの価格、商品の種類など。その子供たちの意見を真摯に受け止め、父さん母さんと4羽の子カラス、アイデアたっぷり新製品「おやつパン」を大量に開発するんだ。「みんなに美味しく食べてもらいたい」という、真心だね。その大勢の客のために、少し成長した4羽の子ガラスが両親を手伝って、力を合わせて頑張る。

そしたら、それを聞いた街の大人のカラスが、パンが「やけた」と聞いて消防車を呼び、その騒ぎで救急車が来て、またまた警官も来て、大騒ぎ。その大人たちが、全員黒いカラスなのだよ。面白い。

その騒ぎで、さらにまたまた集まった大人は黒いけど、婆さんや若者は黒くない、全員微妙に違う色柄。店の前の大騒ぎを見たパン屋の父さんは、大勢いるから3個までしか売らないと言う。そして、パンを3個買う人、2個、1個買う人、買わない人に列を分けることで騒ぎを鎮めた。賢い。

ただし、買わない人の列には、誰もきまりが悪くて並べないんだと。実はほとんどみんな野次馬なんだけど。野次馬たちにも、なるべく大勢に食べてもらいたい。だから、数量限定で、列に並んでもらう。そしたら、大人は「行列」に弱いもので、ついつい話題に乗っからずにいられないんだよね。これが繁盛店の作り方。すごいビジネスセンスだ。

たくさんの教訓が詰まった、子供たちに伝えたい真実。一番困った時に、このパン屋は、売れないからやめるでもなく、焦るでもなく、一番大切な子供たちにパンを食べさせたんだ。失敗作でも。このパン屋のカラスは、「一番大切なこと」を着実に選び続け、その後ろ姿を子供がちゃんと見習った、その末のお店の大繁盛。情報に踊らされているのは、大人たちだけだ。

この絵本のことがもっと知りたくて、いろいろ検索したが、「パンが食べたくなった」「いろんなパンが出てきて楽しい」というような感想しか出て来なかった。私はそうは思わない。

作者が、戦争を体験して、その中で見た、子供たちの本物を見る目というか、何も取り繕わない姿というか、そういう真実の姿。その「一番大切なこと」こそが、たとえ焼け野原からでも生き延びる道なのだということを、本気で伝えたい、残したいと思ったのではないだろうか。