続・取り憑かれているのか
「ママのカニはこれだよ。」
息子がそう言ってショッピング街の水槽のカブトガニを指した。
「こっちじゃなくて、これ。」
二匹いるうちの、茶色っぽい方ではなくて、
ライトグレーのつるっとした方だとのこと。
夫が、パパの背中にもいる?とか横からいろいろなことを尋ねると、
「パパにはいない。□□くんのは、こーーーんな、おっっっきーーーい、
おっっっきーーーいの。○○ちゃんのは、こんな、ちっちゃいっ。」
とはぐらかすように、わざと真剣な顔で大袈裟に話す。
私が、今もいるのかどうか聞くと、
「朝はいない。」と言う。
息子はいつも私の知らないことを教えてくれる。
近所を走る車の車種を何もかも知っていて、
私が唖然とするまで全部教えてくれる。
珍しい車種の時は「これはなんのくるま?」と訊いて、
私が車の背後を読んで教えると、次に通った時に教え返してくれる。
私は忘れている。
今朝の食事の時、ミニクロワッサンを食べていると、
「ぐるぐるぐるぐるー。このぐるぐるはー、おへそ。
おへそは、青のぐるぐるがー、びよーーーんってなって、
ロケットになって、宇宙に行って、そしてー、地球に帰ってくるの。」
昨日息子に、引き出しの奥の3年前のへその緒を見せたので、
何となくそのことを思い出しているのかもしれないと勝手に思った。
3才、無意識と理性の間。
急激に息子の忘却が始まっている。
2才の時に使っていた保育園の靴箱を、この間まで懐かしそうに
眺めていたかと思ったら、先週聞いたら、「え?」と無関心な目をした。
忘れているのだ。
少し前までは、生まれてから今までのことをだいたい覚えていた。
それがついに思い出せなくなってきているようだ。
そんな、人生に一瞬の、不思議な年頃。