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取り憑かれているのか

 

さっき夕食を食べながら、3才の息子がうつむき気味にじっと私を見て言った。

「ひかるかに。」

何度聞き返しても、そう言う。
カニさん?と私が聞くと、「うん。」と珍しく神妙な顔で答える。
息子の目線を追って、私は何度も後ろを振り返った。

後ろの壁じゃなくて背中?背中の上の方?
何色?光るの?
大きいの?
怖い?
いつから付いてる?
右肩?
私がつい質問攻めにすると、少しずつ話した。

「ママの背中に、カニ付いてる。」
「ぎんいろ。」
「ちっちゃいカニ。」
「こわい。」
「ずっとついてる。」
「公園の岩の上にいた。見たことあるよ。」
「いま左。カニは動くよ。こうだよ。」と言って、手をもぞもぞとした。

そう話す息子の目は、たしかに私の肩のあたりをじとーっと見ている。
目をまんまるに見開いて、少し私を見下すような鋭い目つきをしている。
日本のホラーに出てくる、あの目に近い。
私がぞっとした顔をすると、少しだけ笑ってくれた。私を安心させるように。

私は幼い息子の言うことを、信じている。
特に今日は信じていた。それは、保育園から帰ってきた息子の様子が
何となくおかしく、少し熱っぽく鼻を垂らしていたので、
食欲がないだろうと思い、今日出そうと思っていた揚げ物のおかずを、
取りやめて出さずにいたのだ。そうしたら、息子が、
「お肉チーズカリカリ食べたい。お肉チーズ食べるの。」と言う。
息子は冷蔵庫を見ていないし、私がそれを作ろうとしていたことは、
見ても分からなかったと思う。私の思考を見抜いているのだ。

その息子が言うには、
私の背中に少し前から小さな光る銀色のカニのようなものが付いていて、
それは元は公園の岩の上にいたもので、
よくぞろぞろと動き、怖いのでおんぶなどは嫌だと思う、
とのことだ。

私が、これは取った方が良いのか、と聞くと、
「わからない。」と答える。
そのカニが良いものなのか悪いものなのかは分からないらしい。
どうやったら取れるのか、と聞くと、
「わからない。」と答える。
ただ付いているのが見える、とそれだけのことらしい。

その後、剥いたミカンの皮をふわふわ動かして、
「クラゲはこうだよ。」と穏やかな表情で言い、
「カニはこうだよ。」と横に動かした。
「カニは砂にこうなって、死んじゃった。」
「なんか、ママのカニとこのカニは、ちょっと、違う。」
私の背中のカニが死んだ話ではないらしい。
何を話すにも「なんか」「ちょっと」を付けるのは、息子の口癖だ。
私の真似かもしれない。

私は息子の話を聞きながら、
背中のものが取れたら私はもっとうまく生きられるのだろうか、
と自分の生きづらさを何度も思った。
息子はいつも何かと私を見守って救ってくれているような、
もしも前世があるならば、本当に私を救いに生まれてきてくれたような、
息子が誕生した時から、強くそんなことを感じる。
過剰な期待は親として良くないことは分かりつつも、
息子の存在と、息子との縁が、私には不思議で仕方がない。


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