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産後に母として傷つくこと

 

産後の体調がなかなか戻らず、ものすごく疲れやすい。
今までの十分の一程度しか仕事がこなせないという印象だ。
もちろん、赤ちゃんの授乳などで時間を奪われる。
約2時間おきに授乳、1回の授乳とオムツ替えなどの世話に30分、
間の1時間半で、自分が食事をとったり家事をいい加減に済ませたりする。
息子の保育園の準備や送り迎えでも、あわせて2時間ほど奪われる。
私は要領は悪くないと思うが、その上に仕事をしようとすると、
睡眠時間を減らすしかない。

不調の始まりは、年末年始だった。
夫の実家で、夫の仕事関連の大量の年賀状を年内に出そうと手伝いつつ、
義母の手伝いも行い、親戚と会話し、2か月の赤ちゃんの世話をしていた。
すべてが最優先で、いっぺんに両立することはないので、
何とか交互にやりつつ、夜更かししながら頑張っていたが、
大事なことが後回しになっているのを
親戚に見られることに引け目を感じていた。
気にしない、と思いつつも、赤ちゃんを泣かせっぱなしにしたり、
それでいて開き直ったような顔をしてみたりしているうちに、
何だか自分が冷たい人間であるような気分になってきた。

娘が親戚に抱っこされるたびに、うわぁ小さい、軽いねえ、と言われ、
当然そう言われるのは分かっているが、娘は小柄ではないし、
すでに生まれた時の約2倍の重さにもなっているので、
何だか複雑な心境だった。

授乳していると、親戚の幼児の姉妹が「おっぱい見せてーっ。」と
大喜びで触りに来る。途中で「抱っこさせてー。」と赤ちゃんを引っ張る。
私はそんな子供らしい様子を面白く見ていた。
ただ、気は散るし、娘は泣く。

そんな様子を見ていたその女の子たちのお母さんが、
その泣き方は母乳が足りてないと思います、と泣いている理由を教えてくれた。
普段であれば何でもないのだが、産後の心理状態というのは特殊なもので、
「母乳が足りない」という言葉が強烈に心に響く。
泣いている理由は、言われなくても私が一番分かっているし、
普段から足りていないわけでもないので、認めたくもなく、
悔しくなった。母乳をたくさん飲ませたい、飲ませなければ、
と思うのは母親の本能なのだ。

娘はいつでもよく泣くので、授乳中に苦しくなって泣くことも
多いことを伝えると、授乳には3種類の抱き方があり、
横抱きの方が良いことを先輩としてアドバイスしてくれた。
それは産院でも十分に教えてもらったが、いろいろやってみた結果、
娘は飲み方が少ないため、横にすると片方しか飲まないのだ。
縦にしたまま1〜2分ごとに左右を往復するようにして飲ませている。
偏りがあると、乳腺炎で高熱を出すことがある。以前にそうなった。

横だと頻繁な方向転換が難しいので、と娘を左右に回すしぐさをしたところ、
あーっと揺らしたらダメです、とお叱りを受けた。
私は赤ちゃんの扱いが少々乱暴なところがある。
気をつけなければならない。
その後、使わないと思いつつ持ってきた粉ミルクを与えるようにした。
娘は粉ミルク嫌いで全く飲まず大泣きした。

娘は生後2か月でもう夜10時間寝ることもあり、
その間の授乳をしていないことを話したら、
ダメですダメです、と、きちんと3時間おきに起こして
授乳しなければならないことも教えてもらった。
助産師からは、発育が良いので無理に起こして飲みたい以上に
飲ませないように言われていたので、起こしていなかった。

お正月なので、みんなで餅を食べるのだが、
息子はまだ2才である上に、ご飯でも喉につかえる体質で、
餅はまだ無理だろうということになり、私は遠慮がちに
無ければ無いでいいです、と言った。おかずは十分にある。
先ほどの彼女が、心配して、何か食べられるものを用意しては、
と言ってくれたが、よその家では勝手が分からず、
あるものの中から餅の代わりを準備するのは難しいし、
息子は「いつもの」でないと食べない。
どうせ普段から、出しても食べないことも多いので、と言うと、
それって育児放棄じゃないですか、と言う。

いちおう家での食事はバランス良くきちんと出すものの、
息子は気分屋でこだわりが強く、全品食べることはあまりない。
私は、嫌いなものも普通に出して、食べないならおしまい、としている。
無理強いしたり、逆に好きなものしか出さなかったりすると、
偏食が進むだろうと思うのだが、
結局のところ、私はそこまで頑張れていない。
本当は、食べないものも地道に勧めたり、楽しく食べられるように
工夫を重ねて考えてやった方が良いのだろうが、
疲れていたりして、そこまで考えきれない。
日によって極端に少ない日もあるが、長期的にはバランスが取れている、
という自分への言い訳。

うちの子供たちはやっぱり私が母親で可哀想だろうか、と、
自分の母親としてのダメさ加減が身にしみて感じられ、
せっかくのアドバイスを取り入れない自分の頭の固さが、
子供たちに申し訳なく感じた。
もう自分が消えてしまいたいと思うほどに泣いた。
そして自分のあまりの弱さがまた悔しくなった。

彼女のことは好きなのだ。
今どき、ここまで親身になってくれる人はなかなかいない。
たいていの人は、遠慮がちに人のエリアに踏み込まず、結局は疎遠なのだ。
なのに、彼女に対する感謝の気持ちが素直に湧いてこない。
アドバイスの内容は分かりきっていて何一つ役に立つことがないし、
自分の子二人育てたところで、育児のベテランになるわけではないのだな、
などと、批判的なことさえ考えてしまっていた。

息子が生まれた時も同じだった。
息子は生まれたての頃、授乳後にときどき一口吐くので、
よく飲む子はそんなものかと思っていたが、
もっとゲップを出させないと苦しいので、ちゃんとやってあげた方が
本人のためだと思います、と教えてくれて、
今日から特訓しましょう、と、息子を私の肩に乗せ、真剣になってくれた。
私は嘔吐恐怖症で、人のゲップを見るだけで脂汗が出て血の気が引いてしまう。
今は子供のさんざんの嘔吐ですっかり慣れたが。
でもその時は、私は息子に可哀想な思いをさせている、と、
ショックで倒れそうになり、自分も吐きそうになりながら、
毎回30分も1時間もゲップ出しを頑張った。終わった頃には次の授乳だ。
どうにも頑張りきれず、夫が粉ミルクを与えてくれたりした。

あと、息子が飲み終わって笑顔になったタイミングをねらって
オムツ替えをしていたところ、赤ちゃんは飲み終わると寝てしまうので
オムツ替えは授乳の前です、と教えてもらったが、
息子は飲んだ後に寝る習慣がないし、飲んでいる最中に必ず便が出る。
空腹時はとてもじゃないけれど、オムツ替えは無理だ。
泣いて大暴れして脱臼の危険性がある。まず飲ませてからでないと。
男の子ならではの事情かもしれない。

おくるみで包んで手を前に合わせるとおなかの中を思い出して喜ぶ、
とも教えてもらったが、そういう窮屈なのは息子は嫌がって泣く。
でもそれは本当は、私の勝手な思い込みで、
実は私の抱っこが下手で、息子が嫌っているのだろうか、
と無理に考えてまたショックを受けてしまった。
分かっていながらも、すでに考え方が卑屈になっているのだ。

息子が泣いていると、彼女は、
そういう時は抱っこゆらゆらですね、普通みんな夜中も一睡もせずに
ずっと抱っこで家の中を歩き回ってますよ、と、抱っこの重要性を教えてくれた。
息子が少しでも泣くたびに、はいっ抱っこゆらゆら、と声をかけてくれた。
ただ、息子は抱っこがそんなに好きではなく、不安の少ない性格で、泣いている理由は不安ではないから、
抱っこで安心して泣き止んだりはしないし、生まれて最初から夜は全部寝る習性だ。
だから私は、息子が泣いたら、会話するように普通に返事をしている。
そして全く、泣いたら抱っこ、をしない。
泣かれるがままに抱っこする、という考えはなかったので、
私は残忍な母親だ、母親失格、と自分を責め続けた。

自分自身の問題。
そこまで落ち込む必要もないことはもう十分すぎるほど分かっているし、
自分一人の考えでやっている分にはマイナス思考になることはなく、
いつも自信を持っている。育児でイライラすることもない。
だが、人から何か言われるたびに、強すぎる感受性のコントロールが難しい。
私が精神的に弱いから、ではない。育児に不慣れだから、でもない。

そんな、産後の特殊な心理。
赤ちゃんの世話をするためには、些細なことに敏感に気付く必要があるのだ。
気付かなければ育児は出来ない。それが母性というものだ。
過ぎれば忘れてしまい、気付けなくなってしまうのだろうから、
このことをどうしても言葉にしておきたかった。

母乳が足りない、赤ちゃんが小さい、軽い、痩せている、成長が遅い、
泣かせて可哀想、育児は普通こうする、普通の子はこう、まだ歩けないの、
お母さんに似ていない、お母さんに似てしまう、産後太ったね、
家事が遅い、育児しか出来ていない、
そんな言葉は母性の強い母親を傷つける。