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出産の一部始終 誕生編

 

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その後すぐに、分娩室の準備がされた。
いきなり分娩室か。
ここまでの長い時間の後に、今度は急展開で驚いた。
経産婦さんは本当に早いんですよ、と助産師の方に
何度も言われるその言葉が嬉しかった。
初産と違って、陣痛のピークが来てから陣痛室を出て
分娩室へ移動しようと思っても、もう遅いらしい。
待って、待って、待ちわびた最後のステップへ。

本当にあと少しなのか。会えるのか。
前回の出産の時は、早く終わって欲しいと思っていたが、
今回は、早く会いたいという思いの方が強い。
妊娠が分かったのは2月、それからちょうど8か月、
前日の昼に入院して一晩越え、この時をどんなに待ったことか。
その時が今なのだから、どんな痛みも恐くない。

7:55、分娩室へ。
さきほどモニターを付けて助産師の方と会話をして以来、
陣痛は来ていない。
あの、今何ともないんですが。けっこう余裕です、と
かなり普通に歩いて雑談をしながら、陣痛室を出た。
前回の出産だったら、ぎりぎり歩けるかどうかというところだ。
人に脇をかかえられて移動するところだ。
院内のどこかにいるはずの夫に電話したが、出ないので、呼んでもらった。

分娩室に入ると、若い女性スタッフが3人ほどいて、
挨拶をした。みなさん優しい笑顔が本当に素敵だった。
助産師とは何て素晴らしい職業なんだろうと思った。
夫もすぐに来て、白衣を着せられた。
主治医みたいだね、と笑って話した。
息子は部屋の外で一人で待っているらしい。

助産師の方が夫に、まだ少し時間があるから、
お子さん見に行ってきてください、と言う。
夫と私は顔を見合わせて、まあ大丈夫でしょう、と
息子を信頼して言った。前日の午後からずっといてくれて、
病院に一泊して、それでも息子は泣き言一つ言わず、
周りの患者さんや知らない人たちに笑顔をふりまいて、
すっかり人気者になっているらしい。
しっかりしていて、2才には見えないとも言われている。
でも病院側では責任が持てませんから、と言われ、
いちおう夫が見に行った。息子は一人になって
つまらなくなったらしく、ベビーカーで寝ていた。
子供はそうやって睡眠を取れるから良いが、
夫は本当に寝ずに病院で一晩、忙しい中パソコンで仕事をしながら
待ってくれているので、かなり疲れただろうと心配だった。

9:07、急激に強い陣痛に襲われ、いっきにピークに達した。
おなかがぎゅっと張って固くなり、その中心に強烈に重苦しく、
真っ赤に煮えたぎった何かが、爆発しそうになっていた。
人間が感じることのできる痛みの極限であり、間違いなくこれ以上はない。
これは命がけなのだ。
何か赤いものが頭の中でどろどろと溶けるイメージが浮かんだ。
1回の収縮が30秒ほどで、間が1分ほどあったと思う。
その1分も、楽ではないが、かろうじて会話はできなくはない程度だった。
夫が黙って汗を拭き、手を握っていてくれた。

そんな痛みを20回ほど繰り返した印象だった。
途中、何度か体勢を指示され、痛みでとても無理だと思いながらも、
何とかなるべく言われた通りにした。
途中で酸素マスクが当てられた。
いきみたくなりませんか、と言われ、私は何度か首を振ったが、
その後、頭を上げて少し体勢を丸めて力を入れてみてください、と言われ、
その通りにすると、赤ちゃんの頭が見えてきてます、と言われた。
毎度、上手です、上手です、とすごく褒めていただいた。
前回の出産の時も同じように言われた。
5回くらい繰り返したと思う。次で最後だと思います、と言われた。
もう感慨だとか、ついに会えるとか、何も考えないように集中した。

陣痛が20回で、いきみが5回、言われた通りあっという間だった。
一人目の出産の時はこんなものではなかった。
陣痛のピークが4時間ほど続き、いきみたくなっても
いきみをこらえ、そこから分娩室に必死で歩いて移動し、
30分くらいいきんで意識が朦朧としながら、
どうやって生まれたのかも分からず、やっと終わった。
それでも初産にしては軽い方だと思う。

激しい陣痛から20分後、赤ちゃんの頭が出てくるのが分かった。
それをただ何も考えずにじっと見ていた。
髪の毛のぺっとりした、肌に産毛の多い小さな子が、肩まで出てきて、
そこから首に巻きついたへその緒を慎重に解き、
首の後ろにくるんとかけた状態で、つままれた猫のような体勢で
ゆっくりと足まで出た。体が温かかった。
助産師の方々が、あ、大きい大きい、大きいよね、と
話しながら取り上げていたのが、嬉しかった。

おめでとうございます、ものすごく安産でした、と歓喜の声をかけられ、
その直後、私はとても余裕があった。
夫と顔を見合わせて笑った。
赤ちゃんの顔が、ものすごく見たことがある。
どう見ても上の子と全く一緒なのだ。
息子を生んだ時は、これがうちの子か、と見慣れない顔にびっくりしたが。
今度は女の子だった。

左横をちらっと見て、一度深呼吸をして、また横を見て、
息子とどこまで似ているかをずっと観察していた。
なかなか強い泣き声が出ず、口の水を吸われ、両足を持ち上げて叩かれ、
小さな声で少し泣いた。また夫と顔を見合わせて笑った。
酸素マスクを当てられた。私は、そういう性格だと思います、と言った。
この子は、息子と違って、新しい眩しい世界にあまり興奮していない。
自発呼吸は十分に出来ていて、必要以上に泣かないだけだ。

それから、体に異常がないかチェックして、身体測定を終えた。
3.2kg、52cm、異常もなく、しっかりした大きさで、安心した。
夫はまたこれから仕事で、ずいぶん無理をさせたとも思うので、
早く家に帰れるよう、赤ちゃんを先に抱いてもらった。
それから、私の胸元に置かれると、かなり重く感じた。
柔らかくて温かかった。
あまり泣かず、刺激を避けるように目をつぶり、
眠りそうになりながら、時々もぞもぞと動いていた。
私は、息子との類似度合いをずっと観察していた。
かなり長時間そうしていて、重くて熱くて、途中で少し疲れた。

夫は帰り、出産から1時間半後に分娩台を降りた。
ここで倒れそうになる方が多いのでゆっくりと、と言われ、
そろりそろりと起き上がり、床に足を降ろした。
特に何ともなかった。普通に歩けた。
横に立ち会いの助産師の方、後ろから見習いの助産師の方が
一緒に付いて来て、普通はこんなふうに歩けないので、とか、
こういうことは出来ないはずなので、とか、
私の安産を喜んでくださるかのように、
いちいち説明を加えて和やかに指導を行っていた。

いったん陣痛室に戻ったが、
これから出産という方の様子が伝わってきて、微笑ましく思えた。
これが、初めての出産のときは、悪夢に思えた。
夜中だったし、陣痛のピークを迎えている方々のうめき声が響いて、
休める雰囲気ではなかった。
今回は前回よりずっと体力の消耗もなく余裕がある。

つづく


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