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乳幼児の偏食はわがままじゃない

 

偏食は親の食習慣から学習したものであり、
しつけの甘い家庭の子は偏食になる、
というのが通説となっているらしい。
母親に好き嫌いがあったり、料理が下手だったり、
そういうことが原因であり、遺伝はしない、と。
偏食はわがままを助長し、意欲や好奇心をなくすとか。
有名な雑誌にもそのように特集されていた。

2才の息子は重度の偏食。
これだけが、私の子育ての中で、あまりにも予想外だった。
当然、私から生まれた子供なら何でも食べて、
相当の食いしん坊になるとばかり思っていた。
私は、好き嫌いはないし、料理も我ながら得意な方だ。

ところが。
息子は、肉魚類、野菜類にほとんど手をつけない。
野菜で好きなのはトマトのみ、あとは、にんじんとかぼちゃは
何とか食べることもあるが、主にそれくらいだ。

そこで私が失敗したのは、
マニュアル通りの完璧な育児をしてしまったことだ。
超薄味。
嫌いなものもバランス良く、毎日違った食材で新しいメニュー。
偏食用の特別メニューを出さない。
嫌いなものから一品ずつ出して、好きなものは最後に。
両親が揃って目の前で楽しく美味しそうに食べる。
食べられたら大げさに褒める。
食べられなかったら、代わりのものは出さず、食事はおしまい。
泣いてもわがままには一切応じない。
おやつは出さないか、ごく少量。

息子の断食が始まった。
最初、おなかが空けば食べるだろうと思った。
ところが、何食でも連続で断食する。
さすがに心配になって、ときどきパンと卵焼きとバナナを出した。

そんな生活をしばらく続けた後、
息子がついに悲鳴を上げた。
スプーンを床に投げつけ、お皿をひっくり返し、
テーブルをバンバンと叩いた。
そんな息子を、私は叱らなかった。
叱っても、追いつめるだけでしつけにはならない。

食べたくない、のではない。
食べたいのに食べられない、のだ。

食事が楽しくない、ということは、人生悲しい。
偏食には厳しくしつけをすべき、という意見がほとんどなのだが、
それとはうらはらに、それに対する成功例が少ない。
子供の頃に強要されたものが大人になっても食べられない、とか、
実際に嫌いなものをしつけと称して出し続けた家庭の報告だと、
断食が続き、だんだんとぐったりし、やせ細って衰弱してくるが、
それでも食べることはなかったそうだ。
ここまで来ると、虐待ではないのか。

私は息子をよく観察することにした。
苦手なものの代表が、じゃがいも。
パン粉の付いたものが好きなので、コロッケを出してみると、
最初進んで食べるのだが、じゃがいもの塊が口に入ったところで、
オエッとなり、激しく咳き込んで涙ぐむ。
特に朝食ではその傾向が顕著で、いも類は食べられない。
フライドポテトの細いカリカリのなら喜んで食べる。
蒸しパンなら、甘いので喜ぶかと思ったら、
喉につかえてオエッとなり、途中で止める。
薄切り肉や菜っ葉も喉の奥に貼り付いてオエッとなる。

私には、じゃがいもが喉につかえる、という感覚が分からないのだが、
夫に聞くと、じゃがいもは飲み込みにくいと言う。
大人になれば問題なく美味しく食べられるが、
子供が飲み込めない感じはよく分かると言う。
チーズもねっとりして飲み込みにくいそうだ。
特に朝食は流動食が良いなんて言う。
話を聞けば聞くほど、息子の苦手なものと
夫の小さい頃食べられなかったものが一致する。
食事は常に私が考えて準備するし、夫も今は嫌いなものがない。
遺伝だと思う。

息子は生まれた時に、鼻の奥の作りが小さいため、
ときどき軽い呼吸困難を起こしていることを指摘された。
成長して呼吸は改善したが、喉の奥の作りとも何か関係があるだろうか。
よだれを垂らしたことがないので、唾液も少ないのかもしれない。
オエッとなる、というのは学習したことではあり得ない。
咀嚼の方はしっかりしているし、味自体の嫌いなものも特にない。

それと、一度食べられなかったものに対して、
強い警戒心を持つ性格だ。自己主張も強い。
一度も食べることなく、警戒して食べないものも多い。
でも、ただの食わず嫌いだとは思わない。
子供の観察力と想像力というのは優れていて、
見ただけで、食べても問題ないかどうか、かなり正確に判断している。
私はその息子の判断を基本的には信じ、
もちろん勘違いすることもあるので、そういう時は、
食べられるよ、と口へ少しだけ入れてやる。
その警戒心がまた夫そっくりで、夫もよく、
これいつ買った、産地は、といちいち食べる前に尋ね、においを嗅ぐ。
私がきちんとやっていることを理解してくれた上でなお、念押しする。
性格も遺伝だ。

おなかが空けば食べる、というのは、少食の子の場合。

私は息子の偏食を、アレルギーと同じに考えることにした。
卵アレルギーの子供に毎日卵料理を出す親はいないだろう。
毎日食べられそうなものばかり出した。
そうすると、子供というのはすぐに変わるもので、
自信がついて毎日がいきいきとしてきて、食事の時間になると、
椅子に座りたがり、「パクパクー」と言うようになった。
パクパク、は離乳食を始めた頃に息子が自分で食事のことを
そう呼び始めたので、私もそれにならって、パクパク、と呼んでいる。
息子は自分に出された食事だけでなく、テーブルの上の
大人が食べているものまで積極的に指をさして欲しがるようになった。
欲しがったものは、大人向けのものでも、好奇心に答えて少量与える。

そして、食べられてもそんなに褒めない。
息子は、私が喜んでいる心の中だけを見ている。
食べられないものを夫婦そろって
目の前で美味しそうに食べてみせたりもしない。
自分以外の二人がケーキを食べていて、あげないよ、と言われた時のような、
そんな悲しい顔を息子はするのだ。
心の中で、食べろー食べろー、と思っていると、それも全部伝わる。

一般に子供は砂糖や油が得意だというが、そうでない子もたくさんいる。
息子は、夫の食べている梅干しと、ピリ辛らっきょうが好き。
自分で名前まで付けている。
梅干しは「スッパイ」、らっきょうは「コリコリ」、そう言って要求する。
それを見て、私はげんなりする。
息子は私からは何も学習していないように見える。
ちなみに夫の実家へ行くと、黙っていても
息子の大好物だけが出てくる。血筋だ。

偏食の対処方法は家庭によっても違うし、
原因も人それぞれなのだろうが、
母親に遺伝するということも大いにあると思う。
赤ちゃんの体質や体の構造、性格などは遺伝によるところが大きい。
育て方だって、母親は育児のエキスパートではない。
赤ちゃんのいる母親はだいたいみんな母親初心者だ。
しつけだとか工夫だとか、世の中は母親に過度に期待し過ぎだ。

夫は小学校に入るくらいまでには好き嫌いは自然に消えたらしいので、
息子もそんなもんだろうと、あまり心配はしていない。
今は苦手の一つくらいあっても良いではないか、
と思っている。