地震
地震の二日ほど前から、大地震が来たら持って逃げるものを考えて
全く眠れなくなっていた。
考えていて、一番大切なのは、息子の生まれた時の写真だ。
バックアップを遠方の親戚の家に置かせてもらおうと思っていた矢先だった。
その時はちょうど、夫は横浜へ出かけていて、
息子が14時半に昼寝から目覚めてすぐ、おやつを食べさせて、
15時になる前に近所の幼児向け施設へ出かけようと思っていたところだった。
軽く揺れたので、地震かなと思い、まずは息子のハイチェアを押さえた。
治まる様子がないと思ったので、速やかにチェアから降ろし、
抱っこして隣の寝室のベッドの上へ移動した。
その瞬間、今までに経験したことのない大きな揺れが来た。
寝室は、日頃から地震に備えて倒れるものや落ちてくるものを一切置いていない、
何もない部屋だ。テレビが転がる程度だ。
揺れは、ぐぐーっ、ぐぐーっ、と幅広く、北の方向へ進んでいるように錯覚した。
30階以上あるマンションの建物は3分間くらいは動いていたと思う。
揺れたというより家が何メートルか前進したという感じだ。
途中で気分が悪くなり、息子を抱きしめて横になった。
家は真ん中くらいの階なのでそれなりに揺れたけども、CDが全部落ちて
壁に少し隙間が空いてヒビが入った程度で、被害はそれほどでもなかった。
カウンターは50cmほどテーブルが移動したが何も落ちなかった。
揺れるたびに、ミシミシと柱が音を立てた。
1才の息子が明るいので助かった。
揺れるたびに、ウィーン、ガッシャーン、ウィーン、ガッシャーン、
と掛け声をかけて笑い、向こうの部屋で物が落ちる音がすると、
また大喜びで、ガッシャーーン!と大声で言う。
地震だよ、と言うと、じしーん!と言って喜んでいる。
その日一日、私の顔を見てはニコニコしていた。
私も少し楽しくなった。
夫とはすぐに連絡がとれ、横浜の駅前の人混みにいることが分かった。
こちらからは、被害が少ないこと、息子が元気でいること、
マンションのベランダの水漏れのことなどを伝えた。
息子と二人の写真を撮って送った。
夫は、午前3時頃にぐったり疲れて帰ってきた。
夜中に動いた電車で、横浜から大井町まで来て、そこから3時間歩いたらしい。
電車の運転士さんも偉い。
息子は朝起きて一番に、パパいたよー!と大喜び。
何も分かっていない訳ではなかった。
何かあったのだということも察しているし、
私に向かってニコニコするのも、私に笑っていて欲しいからなのだ。
その後息子は、消防車の大群に何度も興奮し、
ことあるごとに、えーしー!と言って笑う。
何でも楽しい方に解釈する。
空は割れたように左半分だけ黒雲、右半分は日が差し、
海はひび割れて液状化していた。
我が家はたいていの物は一週間分以上を備蓄しているので、
特に物には困らなかったし、買い占めも一切していない。
非常食も普段からある程度準備している。
ただ、一週間経ってオムツが減ってきたのがちょっと心配で、
夫の実家にあったものを送ってもらった。
息子も状況を察したのか、地震以来、自分からトイレに行くと
言い出すようになった。
被災地の赤ちゃん達の、オムツやミルクが足りているか、
衛生状況は大丈夫かが気になる。
ストレスでおなかをこわしている子もオムツがないと聞いた。
赤ちゃんは大人と違って、こういったことで簡単に命を落とすこともあるので、
みんな元気でいることを切に願う。
私は、小さな子供たちが犠牲になることが何よりも悲しい。
子供は未来への希望だ。
大地震、大津波、大火災、原発事故、そんな最悪な映像を見て、
この世の物ではないと思うと同時に、この映像を日本中が
少々の好奇心を持って見ているんだろうという嫌悪感を感じた。
被災者の本当の気持ちなど、当事者でないと分からない。
でも、どうしたら被災者の方々の気持ちに近づけるか、考えることは大切だ。
各地の原発停止を求める運動が起きているらしいが、
もしも電力不足によって、医療機器を必要としている方々が
命を落としたりするのでは、停止は決行できないだろう。
信号機の停電によってすでに死亡事故も起こっている。
電力はたくさんの人の命をつないでいる。
電力がまかなえるのであれば、原発は廃炉にしてもらいたい。
ACのCMを堪え難く感じてしまうのが残念だ。
被災地から遠い地域の方はそのように感じないらしいが、
続く余震の中で、今にでも震度6強が来るかもしれない、
放射性物質が降ってくるかもしれない、と不安になりながら
テレビを注意深く見ていると、合間に何度も同じ映像が
反復して流れることが精神的につらく、不安を後押しされる。
チャンネルを変えても、同じものをやっていたり。
AC自体は悪くないし、あのCMは大好きだったのだが。
一日も早いエネルギーの復旧を願う。
産業が活発化して、たくさん税金がたまると良い。
でも東京にいると、これから被災するのではないかという
不安があるので、いつもの生活がいつ戻ってくるのか先が見えない。
今日明日中に二度目の大震災が起こる可能性も十分にあるし、
放射性物質がどれほど飛んできているのか、不明確だ。
赤ちゃんや妊婦の被曝は特に危険とのことで、避難すべきかどうか、
情報収集をしているところだ。国の情報だけでは物足りない。
被災地の方々にも一日も早く安心と明るさを取り戻して
いただきたいものだ。それには、食糧や物資がきちんと届くように
なって欲しいし、全てを無くされた方も、自分の役割を見つけて、
頑張って生きようという気持ちが持てるようになればと思う。
まずは出来ることから。
地震を息子と過ごしてみて、明るい人の存在は本当に周囲を救うと思った。
被災地の明るい方々にもぜひ活躍していただきたい。