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トラウマタイプの人間

 

一度嫌だったことを徹底的に受け付けないタイプの人がいる。
誰だって嫌なことは嫌だが、それに対して大パニックを起こす人。

息子を入れたベビーバス、ちょっとシャワーで流そうと、
バスチェアに移したら、顔にお湯がかかると思って、
ものすごい形相で全身の力をふりしぼって転げ落ちる。
夏の暑い日の外出、その翌日、
ベビーカーに乗った瞬間にギャッっと飛び跳ねる。
前日のこと、よく覚えているなあと思う。
最近は、離乳食が気管支に入るのを恐れて、
これは大丈夫、これはダメ、と選別するうちに、
一時は何も食べられなくなってしまった。

トラウマ人間というものはよく、根性が甘いとか精神的に弱いとか、
チャレンジ精神が足りないとか、何か努力不足のように思われがちだが、
そういうことではない。
そういうタイプの人間は赤ちゃんの時からそうだったのであり、
感受性が強く、心のエネルギーに溢れているのだ。

息子は8か月にして初めての体調不良を経験した。
親戚の下痢嘔吐の子供が泊まりに来たことで、
アデノウイルスをもらってしまったのだ。
咳、鼻水、下痢、嘔吐。こんな健康優良児が風邪なんか
引くはずがないと思ったので、総合病院を受診して
息子は大泣きしながらフルコースで検査され、原因を見つけてもらい、
3時間の点滴を受けて帰ってきた。
体重はマイナス0.5kgで、脱水症状だった。
親戚の子供は、普通に風邪だと診断されていたようだ。

おかげさまで、すぐに良くなった。
アデノウイルスは治るのに2週間くらいかかると言われていたが、
数日で良くなったし、食欲が元通りになるのは
そこからさらに1週間と言われたが、当日からもう問題ない。
ただ、食事に対する警戒心を解くのが難しい。
食べたいのに、うんざり、がっかりだ。

そういうとき息子は、周囲をきょろきょろと見回し、
目の前のものから目をそむけて、他の楽しいことを探し出す。
笑ったり怒ったりという感情表現は巧みなのに、
まだこういった何ともいえない感情を表現する術を知らない。

だから、病院でもらったまずい薬も飲ませず、
脱水症状用のOS-1も飲ませず、トラウマを避け、
ただ楽しく口にできるものだけを与えた。
息子の治る「力」を信じた。
息子も、具合が悪いことに関しては、つらい顔一つしなかった。
むしろ心配して優しくしてもらえて楽しそうだった。

「デキタ」が息子の口癖だ。おすわりやつかまり立ちの時に言う。
ちなみに、おむつを見ただけで「デタ」と言う。
最初は、遊んで、が「パパ」で、おなかすいた、が「ママ」だったのが、
なんとなく人を指して言うようになってきた。
漠然と、発音と物事が一致し始めている。

でも、いちばん初めから、言葉が通じないと感じたことは一度もない。
息子と話していると、言葉を話していない、ということを忘れてしまい、
ときどきそのことを思い出して、なんだか不思議な気持ちになる。
笑顔だと思う。
いつも笑顔を投げかけてくれていて、
表情での会話があまりに豊かなのだ。

ここ数日の成長は目覚ましい。
何にも動かなかった子が、体重が軽くなったおかげか、
突然、四つん這いになり、後ろに進み始めたり、
ふと振り返ると、ベビーベッドの中で、すくっと立っていたり。
そして、つかまってはジョギング。
ずいぶんとヤル気だ。

「デキタ」。良い言葉だ。