絆と嘘
顔で笑って、心で泣いて、という嘘。
そんなことがよく育児関連の書物に堂々と書いてある。
育児はつらいけれど、お母さんは笑っていましょう、ということだ。
笑うことで楽しくなることも無くはないが、
赤ちゃんはそんなことでごまかされない。
生まれたての赤ちゃんが見ているのは、
お母さんの顔よりも、脈拍や血流なのだ。
8か月3週間ほどの期間を、血液を共有して生きてきた。
出産に対する不安や喜びをすべて共有しているし、
お母さんの体に食べ物が入れば、
赤ちゃんの体に次々と栄養が流れ込み、至福の時を過ごす。
お母さんがちょっと息を止めてみただけでも、
赤ちゃんは苦しくなり脈拍低下。
一心同体とはそういうこと。
息子が生まれたとき、
ほら、これがママだよと、手のひらを当てた。息子の耳に。
抱っこする前にいつもそうしていた。
生まれたてで目がよく見えていなくても、
赤ちゃんの聴覚は鋭いので、私の脈がきっと伝わったと思う。
生まれて半年ほどで、赤ちゃんの過敏なまでの聴力は退化して
大人と変わらなくなるらしい。
そして生まれて半年ほどは、まだ体にお母さんの血液が残っていて、
心身が同期している。
血液を分け合った母子の親密さというものは、その点で
残念ながら配偶者でも越えられない絆がある。
可愛い顔を見て微笑むと、赤ちゃんも笑うけれど、
初めての育児はだいたい戸惑うものだから、
赤ちゃんも不安になって泣く。
赤ちゃんはおなかの中から突然外の世界に放り出されて不安です、
なんてよく書かれているが、そういうことではなく、
ただ、母親と同期しているのだ。
私は幸い、育児に対する不安を感じなかったので、
息子も、不安で泣いたことがない。
だって、何でもインターネットで検索すれば載っている。
分からないことなんか何もない。
と思うのは私だけだろうか。
よく、二人目と間違えられる。
たしかに、第二子、第三子となると、
赤ちゃんの顔つきまで違ってくる。
たいてい下の子は偉そうな顔をして落ち着き払っている。
いつも困った顔をしている子は多くが第一子かもしれない。
でも、母子一緒に笑って泣いて、それで良いではないか。
たぶん半年経って脈が聞こえなくなってからも、
子供は分身であり母親のことは熟知している。
強い絆があるのだから、自分に嘘をつかないで、
戸惑って泣いたり、感情的に叱ってしまったり、
すごく可愛いと思ったり、それが人間というものだから、
そのまま全部見せたら良いと思う。
自分の感情に真っ直ぐに、そのままに。